――心理的安全性 for Teacher サマーフェス2026 開催レポート

2026年8月15日、一般社団法人心理的安全性アンバサダー協会主催
「心理的安全性 for Teacher サマーフェス2026」を開催しました。
今回のテーマは、
「休み明け、先生も子どもも楽しみになる♪」
心理的安全性につながる教育手法や、実際の学校現場で生まれている変化を共有し、それぞれの教育現場へ持ち帰ることを目的に開催しました。
当日は、すでに心理的安全性アンバサダーを受講している仲間、そしてこれから受講する仲間が集まりました。
心理的安全性について考える。
インプロを通して「失敗」を体験する。
実際の学校現場での実践を聞く。
そして最後には、参加者同士で、
「自分は何を受け取ったのか」
「9月から、どんな小さな一歩を踏み出してみたいのか」
を対話しました。
そもそも「心理的安全性」とは?
こちらの投影資料はイベント全体の投影資料です。
最初に、協会代表の横内浩樹から、心理的安全性についてお話ししました。
心理的安全性研究の第一人者であるエイミー・C・エドモンドソン教授は、チームの心理的安全性を、
「チームの中でリスクをとっても大丈夫だ、ということがチームメンバーに共有される信念」と説明しています。
ここでいう「リスク」は、大きな挑戦だけではありません。
たとえば、
- 失敗を報告する
- ちょっと気づいたことや懸念を伝える
- 反対意見を言う
- うまくいかなかったことを話す
- まだ確証のないアイデアを口にする
- 悩みを相談する
こうした行動も、人間関係の中では小さなリスクを伴います。
学校に置き換えれば、
「分かりません」
「間違えました」
「先生、ちょっといいですか?」
「私は違うと思います」
「これ、やってみてもいい?」
そんな言葉を子どもたちが安心して口にできるかどうか。
そして職員室でも、
「ちょっと困っています」
「うまくいきませんでした」
「手伝ってもらえませんか?」
「別の方法もあるんじゃないでしょうか?」
と言えるかどうか。
心理的安全性は、こうした日常の小さな対人リスクを取れる環境に深く関わっています。
心理的安全性を「共有的認知」から考える
今回はもう一つ、「共有的認知」という観点から心理的安全性を考えました。
共有的認知とは、
目標・計画・役割・進め方・情報・価値観などについて、チームメンバーが共通の理解を持っていること。
言い換えれば、
「みんなが同じ地図を持っている状態」
です。
「失敗しても大丈夫」
「分からないときには聞いていい」
「違う意見を言ってもいい」
「助けを求めていい」
先生一人がそう思っているだけではなく、子どもたちも含めた教室全体で、それが「この教室ではそうなんだ」と共有されている状態。
そこまでいって初めて、心理的安全性は個人の感覚から教室の文化へと変わっていきます。
その文化を、学校の日常の中でどう育てていくのか。
ここから、サマーフェスは「実践」の時間へと進んでいきました。
「先生は環境」――心理的安全性を育む応用インプロ
浜屋陽子さん(れくまり)からは、教育における心理的安全性と「応用インプロ」について紹介してもらいました。

変化が激しく、絶対的な正解のないVUCAの時代。
決められた正解を覚えるだけではなく、変化の中で他者と関わり、考え、試し、また考えていく力が求められます。
そのとき、主体的な学びを支える土台になるのが心理的安全性です。
「よい学習」は「よい関係」から生まれる。
一人ひとりが「自分らしくいられる」教室をつくることが、主体的・対話的で深い学びを支える土台になります。
その環境をつくるために、先生の役割は仕掛け人でありムードメーカーです。
先生が健康でいて”ごきげん”でいることが、先生の在り方として何より大事です。
『教師は環境』であり先生が不機嫌であると公害になります。
教室の心理的安全性を醸成することが教師の役割であり、教師の在り方次第で教室の心理的安全性が左右されるとお話しされていました。
そして、その土台をつくる一つの方法として紹介されたのがインプロ(即興)でした。
インプロは、台本も設定も決まっていない中で、その場で出てきた相手のアイデアを受け入れ合い、膨らませながら一緒にストーリーをつくっていきます。
それを舞台だけで終わらせず、教育や組織などの日常へ応用していくのが「応用インプロ」です。
まずは「自分らしさの解放」。
遊びという架空のやり取りだからこそ安心でき、子どもたちは恐れずに自分らしさや良さを表現しやすくなります。
次に「行動の変容」。
ゲームの中で経験した安心感が日常へつながり、発言する、助け合う、失敗を笑わないといった心理的に安全な行動が増えていく。
そして最後は「クラス文化への定着」。
安心につながる行動が積み重なることで、それはもはや特別な取り組みではなく、
「このクラスでは、これが普通だよね」
という文化になっていきます。
つまり、
個人の変化 → 関係の変化 → クラス文化の変化
という波紋が広がっていくのです。
インプロが心理的安全性を育て、その安全な土台がさらなる共創を生む。
その循環の先に、子どもたちが主体的に学び、共に教室をつくっていく姿があります。
すきま時間でのインプロゲーム活用
浜屋さんからは、スキマ時間を活用したインプロゲームの実践をご紹介いただきました。
ベルの音を合図に、短い時間で子どもたちと楽しみながら心理的安全性を育む取り組みです。
「ニックネームトス」では、お互いの名前を呼び合うことの嬉しさや大切さを体感。
さらに、「否定・肯定・Yes, And」の違いを体験するエクササイズや、失敗をオープンに表現し受け止め合う「僕ボブ」などを実践しました。
日常のちょっとした時間と「遊び」が、安心して関われる教室づくりにつながっていくことを感じる時間となりました。
この動画は浜屋さんが実施している「ニックネームトス」の解説から始まります。
「失敗しても大丈夫」を頭ではなく、身体で経験する
続いて、北詰秋乃さん(あきの)によるインプロゲームを参加者全員で体感しました。

協会のコミュニティに『インプロゲーム開拓ワークショップ』があります。
2024年6月からはじまったコミュニティでは北詰さんが海外事例などから選定し、コミュニティメンバーで新しいインプロゲームを開拓しています。
今回扱ったテーマは、「失敗」です。
学校で心理的安全性を考えるとき、失敗との関係は避けて通れません。
「失敗しても大丈夫だよ」
と先生が言うことはできます。
でも、それだけで本当に失敗が怖くなくなるでしょうか。
そこで今回は、失敗が起きるインプロゲームを実際に体験しました。
「クラップ・スナップ・ストンプ」
「トカゲ王(King Lizard)」
「ビッグフィッシュ・スモールフィッシュ」
「ウィスキーミキサー」
「ビビディバビディブー」
「命令ゲーム(Simon Says)」
など、集中していても思わず間違えてしまうゲームが並びます。
大切なのは、「正しくやる」ことではありません。
むしろ、
間違える。
思わず笑う。
またやってみる。
誰かが間違えて、みんなで笑う。
でもそれは、その人を否定する笑いではない。
失敗そのものが場のエネルギーになっていく。
そんな体験を繰り返すことで、
「失敗=避けなければならないもの」
という感覚が少しずつ変わっていきます。
心理的安全性は、失敗しない環境をつくることではありません。失敗しても、そこからもう一度参加できる環境をつくること。
インプロゲームは、それを頭で理解するのではなく、身体を通して経験させてくれます。
こちらは「ウイスキーミキサー」を体感しています。
同じ言葉を回していき、誰かが言葉を変えたら逆回りになる。
言葉の面白さに笑ったら失敗。円の後ろを一周回ります。
Yes, Andが「特別なワーク」から教室の日常へ
ここからは、実際の学校現場で心理的安全性を実践している先生たちからの報告です。

佐藤雅彦(さとまさ)さんからは、
「子ども達が安心して学習に取り組める環境づくり ~Yes, Andが日常になり始めた3-1の実際~」
という実践が紹介されました。
佐藤さんが大切にしているのが、
「否定されない安心感」
です。
Yes, Andによって相手の言葉を一度受け止める。
その経験が積み重なることで、トラブルの減少、主体性の向上、前向きな提案、人間関係の成熟へとつながっていくと考え、教室の中にYes, Andを取り入れています。
特徴的なのが、週2回の朝のルーティンです。
火曜日は「Good and New」
24時間以内に起きた「良かったこと」「新しい発見」を共有し、物事のポジティブな側面に目を向ける「視点のクセ」をつくります。
木曜日は「Yes, And」
相手の意見をまず「いいね」と受け止め、その上に「さらに」と自分のアイデアを重ねていきます。
他者との違いを「対立の火種」にするのではなく、協働のチャンスへ変えていくコミュニケーションを、日常の中で繰り返し練習しているのです。
そして興味深いのは、その変化がワークの時間だけにとどまっていないことでした。
たとえば雨で校庭が使えないとき。
以前なら、
「遊べない」
「つまらない」
で思考が止まっていた場面で、
「いいね。でも外は無理だから、代わりに教室で○○しようよ」
と、現状を受け止めた上で代案を出す。
苦手な相手との活動でも、
「嫌だ」「やらない」
と即座に拒絶するのではなく、
「いいよ。でも君よりできないから、やり方を教えてよ」
と関係を切らずに協力を求める。
Yes, Andが「授業でやったこと」から、子どもたちの考え方や言葉へ移り始めているのです。
そして佐藤さんの発表の最後にあった言葉が、とても印象的でした。
「教師の言行一致が、何より大切である。」
どれだけ優れたワークを導入しても、先生自身が日常的に子どもを否定していたら、その教室の心理的安全性は簡単に崩れてしまう。
子どもたちはルールとして書かれた言葉だけではなく、
「教師の背中」を見ている。
だからこそ、Yes, Andを最初に体現するのは教師自身である必要があります。
佐藤さんがご提示していただいた投影資料はこちらからご覧ください。
「遊び」を学級経営に位置づける――インプロゲームくじ

小松俊大さん(ポジにぃ)からは、
「遊びを通して育む心理的安全性」
という実践報告がありました。
実践の一つが、
「インプロゲームくじ」
です。

週2回程度、朝の会で、子どもたちと一緒につくったくじを日直が引きます。
「あぶりカルビ」
「ほいほいイェイ」
「宇宙人ニョッキ」
「じゃがりこぽっきー」
「スパゲッティ」
など、短時間でできるインプロゲームに挑戦します。
ポイントは、「先生にやらされる活動」ではなく、子どもたち自身がくじを引くワクワク感を大切にしていること。
その積み重ねによって、
「失敗しても大丈夫」
という雰囲気がクラスに浸透し、友達との関係づくりや言葉かけ、クラス会議などにもつながっていきました。

さらにインプロは、一つのクラスを超えて広がっています。
交換授業として他クラスでもインプロゲームを実施。
普段あまり関わらない子ども同士が、共通の「遊び」を通して笑顔でつながる。
異学年交流では、上級生が下級生をリードし、それぞれの個性を認め合う。
特に異学年で構成される個別支援学級では、こうした遊びが新しい関係をつくる大きな機会になっています。
個別支援学級だからこそ見えてきた可能性と課題
小松さんの実践では、インプロゲームの「正解がない」という特徴が、特性のある子どもたちの安心にもつながっていました。

ルールを分かりやすくする。
段階的にゲームを進める。
正しい答えを求めない。
そうすることで緊張がほぐれ、のびのびと参加する姿が見られています。
また、他者とのコミュニケーションの土台をつくるSST(ソーシャルスキルトレーニング)としての活用可能性も示されました。
一方で、とても大切な問題提起もありました。
それが、
「全員が楽しい」という前提を疑うこと。
です。
インプロが楽しい子もいれば、即興的に表現することが負担になる子もいます。
「みんな楽しそうだから、この子も楽しいはず」
と決めつけてしまえば、それ自体が心理的に安全ではありません。
参加しない。
見る側になる。
別の役割を担う。
その選択も安全に認められること。
個々の特性に応じて、参加方法を柔軟に変えられること。
そこまで含めて、心理的安全性のある場なのではないかという問いが投げかけられました。
もう一つの課題が、
「教師の万能感」からの脱却。
素晴らしい実践が、ある先生の経験やセンスだけに依存してしまえば、その先生がいなくなった瞬間に終わってしまいます。
「すごい先生だからできる」のではなく、
どの先生でも実践できる仕組みや手引きへ変えていく。
心理的安全性を学校全体へ広げていくためには、個人技を文化や仕組みへ変換していくことも必要なのです。
私たちが最後に話していたのは「ハレ」ではなく「ケ」だった
一日の最後は、協会理事の福島さん(あーさ)のファシリテーションで振り返りました。

問いは、
「あなたの心が一番動いた場面は?」
そして、
「その場面で動いた、自分の中にあるものはなんだろう?」
というもの。
みんなの対話を聞きながら、福島さんが感じたことがあります。
それは、参加者から聞こえてきた話の多くが、
「ハレとケ」でいう『ケ』の話だった
ということでした。
特別なイベント。
特別な研修。
特別なプログラム。
もちろん、それらも大切です。
でも、心理的安全性を本当につくっているのは、その後に続いていく日常なのかもしれません。
朝、子どもにどう声をかけるか。
発言した子にどんな表情を向けるか。
間違えたときに、先生がどう反応するか。
「嫌だ」と言った子をどう受け止めるか。
自分と違う意見が出たときにどう返すか。
助けを求めた人にどう関わるか。
先生自身が失敗したとき、それをどう扱うか。
一つひとつは、とても小さなことです。
でも、その小さな出来事の積み重ねによって、
「ここでは言っても大丈夫」
「失敗しても大丈夫」
「自分はここにいていい」
という共通理解がつくられていきます。
つまり、心理的安全性は、
イベントとして「醸成する」ものというより、日々の関係の中で繰り返しつくられていくもの
なのだと思います。
そして、9月からの「小さな一歩」へ
サマーフェスの最後の問いは、
「9月にやってみたい小さな一歩は?」
でした。
参加者のみんなからはこんな小さな一歩がでてきました
ビックフィッシュスモールフィッシュを9月まずやってみたい。
名前をできるだけ早く覚えて会話の中に必ず名前を呼ぶようにしたい
お疲れ様と伝えるときにしっかり名前を呼ぶようにする
なりたい自分になれるように全力で子どもたちを応援していきたい
厳しめのことを伝えなけれないけないこともある、そんなときに名前を呼んで話をしていくことを心掛けたい
担任しているクラスが、でも、だってが多いのでYes,Andでまず受け止めるようにしていきたい
エブリデイごきげんでいきたい
イイね!そしたらを一日一回、学校で実践していきたい
人間関係プログラムで学年全員で今日習ったことをやったり、同じ先生どうしでも今回学んだことを実践できるようにしたい
あり方そのものなので、言行一致で自分の生活そのものを心理的安全性になれるようにしていきたい
運動会の楽しさをつたえるために表現する楽しさをしってもらえるようになりたい
子どもたちの話を最高の観客で聴いていきたい
いっぱい笑う、失敗を笑って許す
名前を呼ぶことやリアクションなども含めて、どこからやっていけば良いのかを具体的に考えて実行していきたい
教師は環境、言行一致という今日出てきたことを大事にして、失敗を自ら肯定的に受け止めるよう実践したい。学校だけでなく防災士としての活動としても災害などにおいて心理的安全性があれば、助け合うことができるので地域の心理的安全性も醸成していきたい
学校に来てもらい心理的安全性ワークショップや講演を実施して欲しい。まずは子どもたちから心理的安全性を醸成していきたい
みなさんの小さな一歩を聴いていると、9月からの教室や職員室の風景を想像しました。
心理的安全性を、
「どうやって日常にするのか」。
そして、
「どうすれば、誰か一人の素晴らしい実践ではなく、学校の文化として残していけるのか」。
これは、心理的安全性アンバサダー協会としても、これからさらに考え続けていきたいテーマです。
私たちはもう、特別な何か以上に、
日常の振る舞いや関わり方によって心理的安全性がつくられている
ことを知っています。
そして、その振る舞いや関わり方には、
意識して形をつくることで変えられるものもあれば、
自分自身の「在り方」から自然と滲み出てくるものもあります。
だからこそ、
心理的安全性を学ぶことは、
「新しい技法を一つ覚えること」だけではなく、
自分は日々、どんな関わりをしているだろう?
と、自分自身を見つめることでもあるのだと思います。
この日、麻布台ヒルズに集まった仲間たちが、それぞれの学校、それぞれの教室、それぞれの職員室へ戻っていきました。
そこで始まるのは、派手な「ハレ」ではありません。
毎日の「ケ」です。
でも、その何気ない毎日の中にこそ、
心理的安全性のある学校をつくる種がある。
そんなことを強く感じた、2026年の「心理的安全性 for Teacher サマーフェス」でした。
ご参加いただいた皆さま、実践を惜しみなく共有してくださった皆さま、本当にありがとうございました。
またそれぞれの現場で生まれた小さな変化を持ち寄り、一緒に学び合えることを楽しみにしています。





















