― 「心理的安全性」と「対話」を軸とした教育実践、探究学習は
教師・生徒・地域が共に学ぶ学校づくり ―
📅 実施日
2025年3月9日 オンライン 心理的安全性アンバサダー限定イベント
2026年1月6日 追加インタビュー
🎤 登壇者
横田和也さん(よこちゃん)
福井県立若狭高等学校 教諭/心理的安全性アンバサダー
🎤 参加者
心理的安全性アンバサダー

🏢 主催
一般社団法人心理的安全性アンバサダー協会
1.はじめに
本レポートは、心理的安全性アンバサダー協会が2025年3月に実施した「探究学習実践共有会」での発表内容をもとに構成しています。
登壇者は、福井県立若狭高校の社会科教員であり、同校の探究教育を牽引する横田和也氏。
横田先生が語る「心理的安全性」と「対話」を軸とした教育実践は、
教師・生徒・地域が共に学ぶ“学校づくり”そのものです。
福井県立若狭高校は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH) に指定され、
科学的探究と地域連携を融合させたユニークな取り組みを続けています。
特に、地元の鯖缶を改良して宇宙食としてJAXAに認定された「宇宙鯖缶プロジェクト」は全国的にも有名です。
追加インタビューも実施し、クラスでの心理的安全性づくりの実践もお伺いしています。
2.学校紹介 ― 科学と地域をつなぐ学びの場
若狭高校は、普通科・文理探究科・海洋科学科の3系統4学科を擁し、
地域社会に根ざした課題探究を通じて“科学する思考力”と“共創する力”を育てています。
SSHとしては「地域課題を科学的に探究し、新たな価値を創造する」ことをテーマに掲げ、
生徒たちは科学・福祉・環境・食など多様な領域からテーマを選び、
地域企業や行政、大学と連携して探究を進めています。
3.教育哲学:「学級経営」から「クラス経営」へ
横田先生は、自らの教育実践を「クラス経営」と呼んでいます。
「“学級経営”という言葉には、教師が上に立ち管理する印象がある。
でも、クラスというのは先生も生徒も共に創るチーム。
一方的に動かすのではなく、全員が考え、関わり、学び合う。
それを“クラス経営”と呼んでいます。」
この思想の背景には、社会科教員としての信念――
「学校とは民主主義を体現する場である」という視点があり、
生徒が自分の意見を安心して話せる環境を整えることを大事にされています。
4.対話と心理的安全性の実践
「対話はゴールではなく、未来を形づくるための手段。」
若狭高校では、授業・ホームルーム・学校行事すべてに“対話の構造”が埋め込まれています。
「話す」「聴く」「受け止める」という基本行為を通して、
生徒たちは安心の中で自分を表現し、他者との違いを受け入れる力を育んでいます。
日常的な会話・ふりかえり・ディスカッションが積み重なることで、
心理的安全性は“特別な取り組み”ではなく“学校文化”となっています。
5.探究学習を通しての生徒の成長と学び
横田先生は語ってくれました。
「探究の目的は“結果”ではなく“成長のプロセス”なんです。
大会で入賞することがゴールではなく、生徒がこの活動を通して何を感じ、どう変わったか。
そこを一番大切にしています。」
🧭 探究とは何か
「探究ってそもそも何なの?とよく聞かれます。
実は全国で本格的に始まったのは2022年から。
でも、若狭高校は2011年から少しずつ積み重ねてきました。」
学習指導要領に示されるように、探究は「課題設定→情報収集→整理→発表」というサイクルに基づくが、
若狭高校ではその中心に「自己のあり方や生き方を考える」という視点を据えることを大事にしています。
「実社会との関わりから問いを見出し、新たな価値を創造し、より良い社会を実現する。」
生徒はテーマを自ら設定し、地域や企業、福祉団体と協働しながら課題解決に取り組みます。
学びの過程では、教員と生徒がフラットに語り合い、信頼関係を築く時間を意図的に設計しているのです。
「一年の終わりには、グループで一年間の実践と今後の展望を語ります。
生徒同士が“こんなことしたの?すごい!”と驚き合う場面も多い。
その対話が次の探究を生むんです。」
さらに、外部アドバイザーを招いて議論を行うことで、
教員・生徒・地域が共に学ぶ“水平的な学び合い”を形成しています。
上級生が下級生の探究を支援する文化もあり、世代を超えた学びの循環が起きていました。
6.教師も“探究者”である ― ジェネレーターの思想
講演終盤で話題になったのが、「ジェネレーター(発生装置)」という言葉でした。
横田先生は、教師を“教える存在”ではなく、“学びを共に生み出す存在”と位置づけています。
「中導体って、受動でも能動でもない状態だと思うんです。
教員が一方的に導くのではなく、生徒と同じ探究メンバーとして、
ときにこちらから投げかけ、意見し、ときに生徒から引き出される。
その往復の中で学びが生まれると思っています。」
つまり教師は、学びを触発し、循環させる“発生装置=ジェネレーター”であり、
この「中動的関係性」が、心理的安全性の根を育てる鍵となっているのではという話も上がりました。
7.月一回、全員との個別面談 ― 対話を仕組み化する
横田先生のクラスでは、全員と月一回30分の面談を行っています。
進路や成績だけでなく、「最近感じていること」「挑戦したいこと」など、心の動きを中心に語り合う時間とのこと。
「一人ひとりの声を聴くことを“特別なこと”にしたくない。
対話が仕組みとして存在することで、安心感が生まれる。」
生徒は面談ノートに思いや考えを書き、先生に共有します。
「この先生になら話しても大丈夫」という信頼感が、挑戦を後押ししているように感じました。
今回参加していた心理的安全性アンバサダーの中からは、
毎月30分との面談を持っていることに、驚くメンバーもいました。
横田先生からは、空いている時間を生徒と共有していて、自分たちで面談時間を決めて入力してくれるんです。
30分ではなく1時間とか2時間希望の生徒もいますと話してくれました。
8.社会とつながる探究の実践
フードドライブ ― “支援は特別なことではない”
若狭高校では、探究学習の一つとして、食品ロス削減と福祉をテーマにフードドライブ活動を実施しています。
地域から寄付を集め、支援を必要とする人々に届ける取り組みを行っています。
「社会の課題に自分たちでも関われることを知った。
それが次の探究へのモチベーションになった。」
活動を通じて、生徒は“自分も社会の一員”であることを実感。
生徒の支援の行動が、生徒の社会への参画意識を高めていることを教えてくれました。
出前授業 ― 高校生が小学生に教える
フードドライブを行っていく中で、そもそもフードロスを出さないことが大事であると生徒は考え、小学校で出前授業をすることで家庭に伝えてもらうことで、フォードロスを減らせると考えました。
そこで高校生が地域の小学校に出向き、「エシカル消費」「地産地消」をテーマに出前授業を行うことも実施しているとのことです。授業設計・実践・ふりかえりを自ら行うことで、教える立場から再び学ぶ機会にもなっています。
「教えることで、一番学んでいたのは自分たちでした。」
9.教員と生徒が共に語り合う ― 学びの共同体としての若狭高校
若狭高校では、教員と生徒が同じテーブルで対話する文化が根づいています。
「本校では、教員と生徒が一緒に研修会を行う仕組みがあります。
三年生と教員が同じグループで“探究を深めるには”“学校を良くするには”を話し合います。」
また、年度末には「実践報告ラウンドテーブル」を開催し、
教員と生徒が三年間の学びを共に振り返り、次への糧とします。
「教員と生徒が一緒に振り返る中で、“共にやりたい”という気持ちが生まれる。」
教員と生徒の関係は上下ではなく、共に学び合う水平的関係。
その対話が学校全体を“心理的安全性に支えられた学習共同体”へと導いています。
10.訪問記 ― “対話が文化になっている学校”
心理的安全性アンバサダー協会の理事、福島梓(あーさ)さんが実際に若狭高校を訪問し、生徒たちと対話を行いました。
「よこちゃん先生は、話を最後まで聴いてくれる。」
「失敗しても怒られない。どうしたらいいかを一緒に考えてくれる。」
教室には笑顔と相づちが溢れ、“対話”が空気のように存在しました。
あーささんは「心理的安全性が文化として根づいている」と語り、
「生徒が先生を信頼し、先生も生徒を信頼している学校」だと感じたと話してくれてました。
11.共に学び、共に成長する学校へ
横田和也氏の実践は、心理的安全性を“理論”から“文化”へと転化させた素晴らしい取り組みでした。
クラス経営、探究学習を通じて、クラスを「共に学び合うチーム」へと昇華させていました。
クラスだけではなく、学校全体で対話し、価値観を受け止め合い、教師も生徒も“成長する学びの仲間”となっていました。
「探究学習の結果ではなく
過程を通じて、生徒がこの活動を通して何を感じ、どう変わったか
を大切にしています。」
そう語っている横田先生の生徒への思いがとても印象的でした。
探究をする前はなんでみんなと対話しながら進めるのか分からなかった。
でも、探究学習を取り組んでみて、みんないろんな考えがあることを知り、
意見を聞きながら取り組むことの意義を知りました。
探究学習を終えて、このように振り返る生徒がいたんですと横田先生は語ってくれました。
12.追加インタビューから見えてきた横田先生の実践
横田先生のクラスづくりは、4月の段階から心理的安全性を意識して設計されています。
どのようなクラスになって欲しいのか、どんなことを目的として学生生活を送って欲しいのかを説明し、対話やエクササイズを通して自分ごと化してもらう時間を設けています。
目的の共有、クラスとして何が大事なのかを対話やエクササイズで共有することで心理的安全性に必要な共有認知(共有的認知)を実施されているのがともて印象的でした。
時期に応じた効果的なエクササイズ選定をされています。
4月のはじめには、
・ミャンマーミャンマー(僕ボブ僕ボブ)
・共通点探し


など失敗を肯定的に受け止める、相手のことを知るエクササイズを実施し、生徒同士の関係づくりを行います。
その後、半年ほどかけて安心して発言できる空気を育てた上で、
・ピクチャー
・ストーリースパイン


などのより高度な共創するエクササイズと発展させていきます。
最初は簡単な振り返りから始め、半年後には考察を深めるワークシートを使った振り返りへと進化させるなど、段階的に学びを深める設計になっています。
13.安心と規律を両立させるクラス運営
心理的安全性は「何でも許される状態」ではありません。
横田先生は、叱るべき行為の基準を明確にし、生徒と保護者に共有しています。
安心して発言できる環境を守るために、守るべきルールをはっきりさせておくことが重要だと考えているからです。
この方針は、入学式の段階から生徒や保護者に伝えられ、5月の保護者会でも改めて説明されます。
こうした一貫した姿勢が、クラス全体の信頼関係を支えています。
14.心理的安全性は目的ではなく学びの土台
インタビューの中で印象的だったのは、心理的安全性を目的そのものにしていないという点でした。
心理的安全性は、ただ「話しやすいクラス」をつくるためではなく、
生徒が本音で考え、挑戦し、学び合うための土台
として位置づけられています。
もし心理的安全性がなければ、生徒の発言は表面的なものになり、深い学びや挑戦は生まれにくくなります。
だからこそ、探究学習と心理的安全性は切り離せない関係にあるのです。
編集後記:教室から広がる心理的安全性
今回のインタビューを通して改めて感じたのは、心理的安全性は「特別なスキル」ではなく、日々の関わり方の積み重ねの中で育っていくものだということでした。
横田先生の実践は、派手な取り組みではありません。
生徒一人ひとりとの対話の時間を大切にすること。
4月のクラスづくりから関係性を丁寧に育てること。
安心と規律の両方を大切にすること。
そうした一つ一つの積み重ねが、結果として生徒が安心して挑戦できる教室をつくり、探究学習の質を高めているのだと感じました。
心理的安全性アンバサダー協会では、心理的安全性を「ただ優しい空気をつくること」ではなく、人が安心して挑戦し、学び合い、共創できる土台として捉えています。
そして、その文化は企業だけでなく、学校、地域、さまざまな場で育まれていくものです。
今回の横田先生の実践は、まさにその一つの具体例でした。
教室という小さなコミュニティの中で生まれた心理的安全性は、生徒が社会と関わる探究学習を通して、さらに外へと広がっていきます。
心理的安全性は、誰かが与えるものではなく、関わる人たちが共につくっていくもの。
そんな文化が、これから多くの学校や組織に広がっていくことを願っています。
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